今月のエッセー 侃々諤々
2017年2月号

第23話 雪下しの風の吹く夜に

ある冬の夜のこと。ふと目を覚ますと、夜半の風がいっそう強まり、窓をガタガタと揺らしています。雪下ろしの風なのかもしれません。
…… しかしそれにしても、と、まどろみながら、ぼんやりと考えてしまうのです。スズメ達は軒下の巣に隠れているのでよいとして、カラスやハトやシギなどの、少し大きな鳥たちはどの様にしてこの夜を過ごしているのでしょうか。

夜の闇の中に、想像力がゆっくりとふくらんでいきます。
窓を揺する風の音は妙に心地よく、じっと聞き入っていると、突然、様々な音の記憶が甦ってきました。…… 吹雪の夜に、空を吹き渡っていく風の音、闇夜を切り裂く稲光の後に、少し遅れて聞こえてくる遠雷のとどろき、激しく窓を打つ雨の音、パタパタと紫陽花の葉を打つ小雨の音、そしてしんしんと雪降る夜の静謐……、それらが、あたかも手で触ることができるものであるかの様に、まざまざと甦ってきたのです。

そして遠い昔の記憶から、やがていつしか現在の日々の暮らしの中の情景が思い起こされてきました。…… 風の吹いた日の、ざわざわという大きな木立のざわめき、夜、何かに驚いて飛び立ったシギの鳴き声、頬をなでる風の感触、雨の上がった後の、しっとりとした空気のかおり…… これらの感触が、どっと甦ってきたのでした。

そして、レイチェル・カーソンが「センス・オブ・ワンダー」と呼んだもの…… そう、自然の神秘や不思議さに眼をみはる感激( 私は瑞々しいこころ、と訳していますが )…… について、考えるともなく、ぼんやりと思い出していました。そして更に、暗い夜空の向こうには、たとえ目には見えなくとも、星々の星座が、今この瞬間も輝いているということを思い出していました。
すると、これらの遠い記憶と、今現在の日々の情景が重なり合い、そして身のまわりの小さな日常の世界と、星々の広大な世界とが響きあい、それぞれに今この瞬間を豊かに満たすもの…… ハーモニーとでもいってもよいかもしれませんが…… があることなどを、ぼんやりと考えていました。

…… 明日は雪になるかもしれない ……

そしてこれらをぼんやりと考えながら、いつしか眠りに落ちてしまっていたのでした。

草津栗東医師会 理事 西 高弘(にし内科クリニック)

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